何周か遅れた。というよりも、話題が落ち着いてきたのを見計らっていた。ちょっと前にネットで議論されていた赤いきつねのCMを、改めてじっくり見て考察しました。
赤いきつね 緑のたぬきウェブCM 「ひとりのよると赤緑」 おうちドラマ編
私は特に、「フェミがうるさい!」とか「性的で不適切だ!」とか、対立するような要素は何も感じませんでした。
ただ、緑のたぬきの男性のCMは「ひとりの人間が美味しそうに食べ物を食べている」様子に対して、女性のCMは「可愛らしい女性が美味しそうに食べ物を食べている」風景に見えます。多少なりともフィクションの上で、女性の可愛らしさを意識した演出を前面に出しているとは感じました。
でも、露悪的な性描写には見えません。よくある二次元美女・美少女の描写です。
CMそのものがテレビ向けではなくYouTubeなどWeb向けなので、お茶の間に流れるものではありません。
Web向けCMはターゲット層を細かく絞って放送しています。ネットユーザーの閲覧履歴をビッグデータ化して「漫画・アニメが好きな若年層」というくくりでピンポイントで流されてると思われます。
全国区のテレビCMとしてなら、老若男女、不特定多数の一般人が視聴します。偶然、漫画・アニメが好きではない層の目に止まれば「気持ち悪い」と受けとる人が多く現れます。
でも、Web向けCMとしてターゲットを絞っているなら、そのような意見の衝突は最小限です。
性的な描写云々というよりも、問題は別のところにあるのではないかな、と個人的に思いました。
赤いきつねCMは、不鮮明な情報が渋滞してるように見受けられます。また、人を選ぶもうひとつの要素は、咀嚼音という音の効果です。
緑のたぬきCMは、状況がとても分かりやすい。
寒い雪の日、職員室で夜勤の男性教師が仕事をしている。一息入れるため、暖かくて美味しいカップそばを食べてホッとする。という、単純明快で簡潔な内容です。
咀嚼音も、上のように分かりやすい状況で演出されているので、自然な流れで特に気になりません。頭にストンと入って来る。
赤いきつね 緑のたぬきウェブCM 「ひとりのよると赤緑」 放課後先生編
一方で、赤いきつねCMは、状況がものすごく分かりにくい。
まず、女性の年齢がわからない。未成年なのか成人なのか、一目ではわかりません。仮に女性が未成年の学生で、親の保護下のもとで暮らしていたとしても、その設定が決定的にわかる描写もない。
なぜか暖房も照明もつけていない。うどんの白い湯気がもくもくと立つほど室内温度が低いのにも関わらず。
視力が悪そうなのにメガネを取っている。泣くほどに感動的なドラマの見せ場が見えてないじゃん。メガネの要素は必要なのか?うどんの湯気で曇る、感動して泣くなら、メガネは要らない要素では?アイテムとしての扱いが、まどろっこしい。
そもそも女性の部屋は、夜にカーテンを開けないと思う。そこまでして、窓の外の風景から知り得る重要な情報もない。窓の景色も、大都会の高層マンション。
住居環境を考えると富裕層っぽいけど、成人なら高給取りの職業なのか、富裕層の配偶者なのか。実家暮らしの学生なのか。やっぱり人物像がわからない。
人物の後ろにベッドらしきものもあるし、この部屋はリビングではなくてファミリー向けマンションの個室なのか?ワンルームなのか?そもそも布でごちゃごちゃした物はベッドなのか?
間取りや家具にも違和感がある。ローテーブルの向こう側の脚が見えなかったり、ベランダ側の壁にドアがある。開けたら高層マンションから真っ逆さまなのでは…。ソファの手前にわざわざ座椅子を置いてアヒル座りするだろうか?素直にソファーに座れば良いのに。
かろうじて可愛い猫グッズが好きというのはわかるけど、その要素は最も優先するほど必要な情報か?
要するに、伝えるべき必要な情報が不足していて、必要ではない情報が散乱している。
更に加えて、この赤いきつねCMにはいわゆるASMR要素が含まれています。ASMRの咀嚼音は愛好家には好まれますが、人によってはかなり好き・嫌いが分かれる要素です。
CMって、好んで見るものではない。不意打ちで数十秒流れて、その上で商品を印象付けたり、良いイメージを与えられれば御の字というものです。人は一方的に入ってくる情報をいちいち精査するほど、思考のリソースを使わない。
情報に不鮮明な要素が多過ぎると、視聴者が内容を理解するために無駄なエネルギーをたくさん使わないといけなくなる。そうすると知らないうちに、ものすごく脳が疲れるんですよね。
そういった疲れる要素を無意識に感じ取って、なんとなく不快感を持った人がいたのかな。上手く言葉に出来ない不快感を、このCMで唯一分かりやすく表現されている、「フィクションとしての可愛らしい女性の描写」や、「ASMR要素」に結びつけてしまったのかなと思いました。
視聴者が自発的、能動的に楽しむコンテンツなら、ハラハラ・ドキドキ要素や謎解き要素のような程よいストレスがあった方が楽しめるけど。
逆に、『意図的に情報を大渋滞させた上で、知らせたい情報だけを明確にキャッチーにして効果的に印象づける』という方法を使ったCMもあります。
イエローハットとか、みすず学苑とか。
『イエローハット』CM
あえて情報過多にして不可思議な空間を作り出し、明確なキーワードをひとつだけ表示する技法。「内容なんてどうでも良いのよ!理解なんかしなくて良いのよ!とにかく黄色い帽子だけ覚えて!怒濤の合格というキーワードだけ覚えて!」という意図で作られている。
この2つは意図的に情報量をコントロールされて作られているけど、赤いきつねCMは情報量のコントロールが出来ていない。そのため意図せずに、明確で分かりやすい情報「フィクションの可愛い女の子が食べ物を食べている」という映像と、賛否が分かれる「咀嚼音」だけが頭に残ってしまう構造になっている。
さんざん指摘だけするのもセコい気がするので、無理やり別の案を考えてみる。
いっそのこと、緑のたぬきの男性CMの設定が教師なら女性の方もリンクさせて、女子学生という設定にしたらどうだろうか。女性の年齢や生活環境・経済状況が曖昧なのも解消できるから、多少は情報がスッキリする。
案1.
運動部の女子学生が数名。大きな荷物を持ったジャージ姿の活発な感じ。(制服にするとフェミ云々となるので、あえて露出のない健康的なジャージで)
「お腹空いた~」とか元気に楽しそうに喋りながら、コンビニでカップうどんを買ってコンビニの片隅のフードコートで食べる。
育ち盛りの運動部なら1日5食くらい余裕で食べる。(でも「買い食いが~」って言われるかな)
とか、
案2.テスト勉強中の女子学生。夜食として、自室でカップうどんを食べる。(これも女子学生要素を強く出すとフェミ云々となりそうなので、保護者を出演させる。家庭でちゃんと守られて育てられている要素を出す。)
「教師も学生も老若男女、みんな美味しく食べられる良い商品ですよ!」というアピールにも繋がるのでは。…と妄想する。
でも多分、このCMのコンセプトは「若年層(成人?)が日常生活の中で、ひとりで夜にカップ麺を食べてホッとする」だと思うので、学生ネタは多分ボツかもしれない。
下手に大きくいじらなくても、
・女性を成人に見えるように描く
・人物像の設定をしっかり決める
・人物像を踏まえた上で、背景の設定(間取りなど)を分かりやすく描く
…という点を修正。アニメーションそのものやASMR要素はそのままでOK。
これだけで、炎上は起こらなかったのではないかと思う。
問題は、性的表現云々ではない。
CM映像として情報の整理整頓が少し不足していて、意図しない効果が出てしまったという印象です。
各個人がどんな感想をいだくのかは誰にもコントロールは出来ないので、否定も肯定も含め正解だと思います。というか、誰にも個人がいだいた感想を正解・不正解とジャッジする権利はありません。
でも、不快感を一企業、クリエイター個人に向けて攻撃するのは絶対に間違っています。
あと、東洋水産は美味しい良い商品を作っている会社です。
仮に、どうにも擁護ができないような下衆い不祥事を起こしたならともかく、そんな事実は一切ありません。
感情論一辺倒で批判をするのも、なんだか違う気がしますね。
余談ですが、セブン&アイの「肉うどん」(東洋水産)がお手頃でめちゃくちゃ美味しい。私はしょっちゅう食べています。